新しい京都のデザインを創出


審査員講評

新井 清一 (建築家・京都精華大学教授)

 本年度の京都デザイン賞の第1部門である建築・ランドスケープ・インテリア・ディスプレイの応募作品は例年に比して少なめであった。この部門の作品は現物のサイズとしての展示はそのスケール故出来ない。よって1枚のパネル、模型に依っての表現がなされなければならない。他方、その他の部門作品は現物展示があり、直にその表現が伝わってくる。今期から加わった映像部門ではコンピュター画面上の映像、音声を媒体とした表現である。このように、京都デザイン賞の特色は何と云っても、多くの他部門の作品群が同じ審査の机上に於いて選出される事にあろう。その意味で、審査には面白みもあり、また反面審査での基準をしっかり持たずとしての評価は難しいと思える。選考された作品群からの選出には特に京都のイメージ,独創性、素材、環境が関連する相関性を基準として審査にあたった。
 大賞を受賞した「鶴亀うちわ」をはじめ、「伊根の舟屋」、「BOTANICAL JEWELRY」、「Porta」、「スフェラースティック」、「こころん」、「BURE-ぶれ-」、「八千代綴り」、「聖三一幼稚園」、らの作品が目に留まった。このように俯瞰してみても各々の作品が、その部門での魅力を遺憾なく醸し出しているのは一目瞭然であろう。
 映像部門から1点の入選、また学生作品の入選があり、今後の展開に於いて更なるバラエティーに富んだ展開があるだろう、と期待して止まない。

久谷 政樹 (グラフィックデザイナー・京都造形芸術大学名誉教授)

 今年の大賞は大友敏弘さんの「鶴亀うちわ」に決まった。評価を一口で言えば率直に「美しいデザイン」だなぁと思った。この作品の特徴は柄の形にある。伝統的な家紋にヒントを得たといわれているが、私はとてもモダンで新鮮に感じた。鶴と亀の左右対称の柄の曲線は微妙に違い、シンプルなだけに熟練した職人さんの手を感じることができる。手に取って仰いでみると、これが意外と使いやすく機能的なのには驚いた。
 また、扇部の「透かし和紙」は濃淡で模様を控えめに素材を活かし、上品に仕上げられて好感を持った。
 最初に述べた「美しいデザイン」は形、技、素材がそれぞれ出しゃばらない絶妙なバランス感覚にあると思う。「鶴亀うちわ」にはそれがある。誤解を招くかも知れないが「慎ましいグットデザイン」とも言える。飾っても良し、使っても良し、贈っても良し。

滝口 洋子 (京都市立芸術大学教授)

 デザインの概念はますます拡張されていき、産業に関わったものからより理想的な生活を求める人びとの視点へと変化してきました。モノづくりから考え方や構想、サービスなど有形無形を問わず人間の活動のあらゆる領域で必要とされ、すべての人が様々な形でデザインに関わるようになったといえます。今再びデザインは社会的な役割と共にその美的創造的な完成度が問われるようになってきたと感じています。京都デザイン賞では「斬新な京都のデザイン」という切り口で審査を行うためエントリー作品を前に毎年のように京都らしさについて議論があります。
 今年度大賞の「鶴亀うちわ」は伝統的な素材や技法を用い、家紋からの洗練された意匠でありながら子供や外国の方まであらゆる人が瞬時に使い方を理解し、そのやさしい手触りや使用感、吉祥のイメージで場にコミュニケーションが生まれます。このような人の気配を感じる温かみのあるデザインが京都らしいデザインの一つの例であるといえるでしょう。今回から映像部門が新設され、また課題部門の作品も新鮮なアイデアが見られ充実してきました。これからも新しい京都のデザインの例に出会えることを楽しみにしています。

中島 信也 (株式会社東北新社取締役/CMディレクター、武蔵野美術大学客員教授)

 心を動かすデザインには「勢い」っちゅうもんが要ると思うんです。それは物事が新しい世界へと進む時に生じるエネルギーによって生まれます。子供がおっきくなる時、青年が大人になる時、国が新しい豊かさを獲得しようとしている時・・・今この国に「勢い」、あるんやろか?少子化いうても仕事がようけあるから就職戦線は売り手市場。でも、今を生きる若者の中に、これからいよいよ新しい世界に突入するで!と期待に胸を膨らませてる人はどんだけおるんでしょうか?2020を前にインバウンドで京都を始め日本各地はえらい賑わいです。でも、正直、この国に「勢い」はあるんやろか?
 これは社会の根幹が全くアップデートされる気配のないことに対する若者のがっかりな気持ちによるところも大きいんちゃうかと思います。この国、戦後から、いや明治からの目に見えない既成の枠組みがなんも変わってへんのとちゃいますやろか?既成の枠組みの中でデザインせい、言われても・・・ねえ。
 デザインは社会を革新する力と切っても切れないもんです。新しい幸せを獲得しようという意思です。社会に「勢い」がないと人の心を動かすデザインは生まれへんような気がします。そんな現状の中での京都デザイン賞。作品はみんな頑張ってるしクオリティは申し分ない。ただ審査にあたって、その造形の細部をどうこう言う前に今、京都の、日本のデザインをこれからどう展望したらええんや?ちゅう問いかけに必死に答えを出そうとあがいている僕がいました。

村田 智明 (株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役)
      (京都造形芸術大学プロダクトデザイン学科客員教授)

<鶴亀うちわ 大賞>
 持ち手の摺り漆はべとつかず、緩やかに曲がった形は扇ぐ度に心地よい。また、透かし和紙の濃淡と扇骨の凹凸だけが醸し出すグラフィックは控えめな中に、素材と確かな工芸の技術をクローズアップしていて、好感が持てる。造形を共通化せず、敢えて鶴亀に準じた扇面や柄にした点もペア商品の企画として成功している。
<伊根の舟屋 知事賞>
 伝統的建造物群保存地区に指定されながら、もはや漁師の営みがない舟屋。法規との板挟みに置かれながらも、最良の計画で地域資産のあり方を問う姿勢には、頭が下がる。そして、すでに必要なくなった舟の代わりに湯舟を置くウィットが心地よい。こういった事例を前に、今一度、そこに人が息づく柔軟な地域創生のあり方があると、この作品は示してくれている。
<BOTANICAL JEWELRY 京都市長賞>
 琥珀に樹液由来の漆芸技法としての蒔絵を施すことで、植物×植物のジュエリーができた。鉱物由来のジュエリーが大半を占める中、非常に興味深いことだと思う。琥珀の表面細工と内部に見える奥行きに1000万年以上の時空が見える。
<都鶴 伏見の清酒・都鶴賞>
 酒瓶から鶴が飛び立つような、真っ白な切り絵の陰影が美しい。閉じた切り絵のデザインの地味さをどう克服するか、そしてユーザーにどうやってポップアップさせるかが課題だ。
<紙とうふ 京とうふ藤野賞>
 豆腐自体はテープにはなりえないが、湯葉やあげなら可能かも知れない。新しい食の材形の提案になる可能性があり、豆腐関連食材の拡がりに期待できる。
<京都用箋miyako 京の和文具賞>
 京都用箋miyakoは、京都市街地の碁盤の目をそのまま罫線に見立てた四角い付箋だ。そのため、道案内のメモに効果が期待できるほか、文字数を数えることのできる便箋としても活用できる京都らしいアイデアだ。
<月桂冠うたかた 入選>
 スパークリングの日本酒に合う華やかでフェミニンなグラフィックで、日本酒=男性のイメージを払拭していて、女性市場に向けて商業的に期待できそうだ。
<KIRIE Jewelry HAKU 入選>
 切り絵に漆を施し、金箔を施したジュエリーは、紙がベースとは思えない繊細さと品位を感じさせてくれる。
<おふき 入選>
 絹の眼鏡拭きのシリーズグラフィックが素晴らしい。またパッケージに、たとう紙を使い、着物を入れる時と同じように紐で結ぶアイデアは、京都らしいお土産物だと思う。