審査員講評

新井 清一 (建築家・京都精華大学教授)

 
 本年度の京都デザイン賞の第1部門である建築・ランドスケープ・インテリア・ディスプレイの作品は例年に比して多数の応募があった。この部門の作品は現物のサイズとしての展示はそのスケール故出来ない。1枚のパネル、模型に依っての表現がなされなければならない。他方、その他の部門作品は現物展示があり、直にその表現、ものとしての対応が伝わってくる。このように、京都デザイン賞の特色は何と云っても、多くの他部門の作品群が同じ審査の机上に於いて選出される事にあろう。その意味で、審査には面白みもあり、また反面審査での基準をしっかり持たずとしての評価は難しいと思える。選考された作品群からの選出には特に京都のイメージ、独創性、素材、環境が関連する相関性を基準として審査にあたった。
 大賞を受賞した「箱酒器」「桐衣類収納箱」は中に入る物の特性を反映したデザインばかりでなく、その収納される形態の反復操作に関わるモジュールの設定、スタッキング収納迄も考慮された作品である。京都府知事賞の「THE THOUSAND KYOTO」は、3つのキーワードを基に、京都らしさを演出した空間を生み出している。京都市長賞の「京町屋旅館 すみ蛍」は、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」から引用された影と光の織りなすコントラストが微妙に、克大胆に双方、内外の魅了を相関性への配慮の基に組み入れられたスペースを醸し出している。
 他の部門では、「壬生大念仏狂言」のポスター、がある程度距離が有ろうとも表現の視認性が際立っていた。
 「朝田善之助記念館」、「移動ミュージアム」「パンとエスプレッソと嵐山庭園」「自然の形態美-バウハウス100周年記念展」「国立京都国際会館」もこの京都デザイン賞の開催意図に沿った作品としてデザインされている。
 このように俯瞰してみても各々の作品が、多くの部門での魅力を遺憾なく醸し出しているのは一目瞭然であろう。
 

滝口 洋子 (京都市立芸術大学教授)

 京都デザイン賞の審査においていつも話題になる京都らしさですが、今年の審査をしていて京都らしさの要素の一つに素材や技術とともに「時間」があるのだと気づきました。
 最近特に話題になっているサスティナビリティが多くの作品にごく自然な形で提案されていました。
 「新しい京都のデザイン」がテーマである京都デザイン賞ですが、京都のデザインはその昔から持続可能な社会や文化を目指し時間軸を常に内包していたのでしょう。新品の時だけが最良な状態ではなく、使う人やその環境との関係のなかで時間をかけて変化をし愛着の持てるモノからコトへ、現在から未来へつながるデザインを目指していたのだと思います。
 大賞の箱酒器、桐衣類収納箱はいずれもその形や素材感の美しさとともに時間の要素が取り込まれており大変新鮮に感じました。
 入選作品の中では京の山並み「レ・モンターニュ」のテキスタイルは原画に込められたコンセプトにゆるやかな時間の流れが感じられ、パリのエスプリを持ちながら京都らしくもあるデザインだと評価されました。また、こどもkimonoは成長に合わせてサイズアップ可能な普段着使いの着物でこのような子供の頃からの和服体験は大切にしたいと思います。
 今年は例年より全体のエントリー数が増えましたが、テキスタイル・ファッションの第3部門や昨年から新設された映像部門にさらに多くの作品が集るよう期待しています。
 

中島 信也 (株式会社東北新社取締役副社長/CMディレクター)

 僕はデザインは「人を喜ばせる」もんやないとあかんのとちゃうか、と思ってます。「きれいやん!」「おしゃれやなあ!」「かっこええねえ!」と人の心をちょっとプラスに動かしてくれるもの。
 さて京都デザイン賞2019。僕の心をプラスに動かしてくれるものといっぱい出会えました。大賞となった増田桐箱店の「箱酒器」と「桐衣類収納箱」。なんと福岡の会社です。でも「京都のくらし」をしっかりイメージして創作されたそうです。両方ともぱっと見ただの箱なんですが、触ってみて、開けてみて、積んでみて、わ!これはおもろい!なるほど!と思いました。プレゼンテーションからも「なんとか京都の人を喜ばせたい!」という意思が強く伝わってくる。見る人、来る人、使う人の心を想い、喜ばせようとする心。ここに、どんなにツールが変わっても変わることのない「デザインの心」を見つけました。
 この心は人間同士のコミュニケーションを生みます。コミュニケーションが生まれると作り手に対しての尊敬が芽生える。今の世の中「作り手に対する尊敬」が大変不足しているように思います。そろそろ「お客さまだけが神様」という習慣から脱却して、お互いを尊敬し合える社会になっていかないと、豊かなデザインは生まれてこなくなるのちゃうか、と思いました。
 

久谷 政樹 (グラフィックデザイナー・京都造形芸術大学名誉教授)

 京都商工会議所会頭賞の「かんざしレター」花簪は舞妓が季節を表すために使う髪飾である。その花簪をモチーフに紙のメッセージカードとして提案された和文具だ。
 この作品の素晴らしいところは、季節を表現する十二か月のイラストだろう。中でも「藤」「桔梗」「すすき」など単純化されながらも伝統文様をしっかり踏襲し、ユニークで個性的なモダンデザインに仕上がっている。その才能の高さに驚かされた。
 京都新聞社賞の「壬生狂言観光ポスター」(3部作)は久しぶりのグラフィック部門からの入賞である。私の専門分野でもあり嬉しかった。
 約700年の歴史を持つ壬生狂言は毎年節分と4月、10月に京都壬生寺で鬼や大原女の仮面をつけ演じられる民衆による無言劇である。
 ポスターはその仮面をモチーフにしたものだが必ずしも壬生狂言のための告知ポスターではないようだ。精神性に問いかける英文のキャッチフレーズはインバウンドを意識していると思われるが、日本人へのアピールもあるのだろう。
 大胆に仮面を切り取り筆の勢いを墨一色で表現したイラストは斬新であり、力強く、秀逸であった。
 

村田 智明 (株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役)
      (神戸芸術工科大学客員教授、九州大学非常勤講師)

 今回のグランプリは、エイジング技法の「ヤシャブシ染法」で、桐箱に時の流れで変化する木質を表現し、新品にはできない生活に深みを与えた箱酒器と桐衣類収納箱を提案している。町家のリノベーションのように、素材の持つ重みを活かしながら、時代に合ったデザイン提案がなされているところが素晴らしい。箱酒器は、飲みやすい、注ぎやすいという機能性だけでなくミニマルで現代的な完成度の高いデザイン性を備えている。桐衣類収納箱も同様で、開けにくかった蓋に指が掛かる機能性とデザイン性を与えている。和文具賞のシノビンセンは、ウィットに富んでいて、実際に使ってみたくなるワクワク感を持っている。伝えたいメッセージを書いて、体半分がわざと見えて相手が気付くようにこっそり仕掛ける。思わず笑顔になる
顔が浮かぶようだ。学生賞のおとうふちゅーぶは、この容器にとうふを入れることで、剤形が変わり、様々な食の形態へ応用する可能性が見えるようだ。入選の鬼瓦のミニチュアは完成度の高いコレクターアイテム、地域の文化・歴史の解説がある付録付きの頒布本であればさらにファンができそうだ。MOGANAは、建築家山口さんらしい凛とした緊張感のなかに、自我へ回帰できる異空間が実現している。ムーフとうふは、もし空気との混合で泡立てることができれば、食が楽しくなりそうだ。鴨川とうふは、グラフィックがいい、誰もが京都だねという風物詩を今風にアレンジしている。