「京都のものづくり」
京都は千年以上の長きに渡り、わが国の都であり続けました。政治と権力、貴族達の表舞台の中心地であったと同時に、現代の日本人の精神文化や生活様式に通じる豊かな文化が花開いた地でした。伝統を重んじながらも、先取の気概をもち、常に新しいものを生み出してきたこの街は、変革や混沌の中で生き抜く智恵や技術を内包しています。生き方や様式を美学にまで高め、それらを脈々と受け継ぎ、守ってきた京都人の感性。千年ものスパンで生き、暮らす京都人の智恵や技こそ、新しいミレニアムを迎えたこの大転換期に求められるものなのではないでしょうか。そこには現代の企業や人のあり方を示すヒントが隠されているとはいえないでしょうか。
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不況と呼ばれる現代では、企業の商品力は同時にデザイン力だといわれています。常に進化する消費者に対して、同時に、むしろ先がけて進化すべきものとして商品をとらえたとき、技術力は、ほんのスタートラインに過ぎず、商品の価値を決めるのは付加価値としてのデザインに他なりません。同じような商品が乱立する現代では、デザインの力が商品の競争力においてますます大きな要因になっています。
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京都では、千年の都の歴史と文化を背景に、伝統工芸品をはじめさまざまな生活用品が創作されています。職人たちの卓越した技と誇りは代々受け継がれ、彼らの生み出す品々は「京もの」として各分野で高い評価を得てきました。長い歴史の中で研ぎすまされた京都の感性は、新たな生活文化の提案や、先端産業にまで発展し、ものづくりの拠点としての京都の存在をあきらかにしています。
一九八九年、平成元年は、当時通商産業省によって「デザインイヤー」と位置付けられ、デザインを通じて新たな時代における生活と産業と文化のあり方を、さまざまな分野で問い直そうという運動が展開されました。京都府では、これを機に京都の産業デザイン開発力の向上と、京都ブランド商品の普及および啓蒙をめざして「Made in KYOTO 京都デザイン優品選定事業」を開始しました。
これらは実際に市場に流通している京都商品の中から優れたデザインの商品を京都府が選定するもので、デザインを中心にすえたという意味ではまさしく21世紀にあるべき姿勢の先取りだったといえます。デザイン優品の浸透とともに応募商品の数も増え、この十年間で約 点を超える商品が選定されました。どれも京都の伝統と気鋭の精神が生んだ「京都ブランド」の名にふさわしい商品です。
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二〇〇〇年、京都優品も10年の節目を迎えました。その集大成として、それらを生み出した企業やデザイナーにスポットを当て、ものづくりのバイブルとして、後の世代にまで伝える読本を企画しました。京都が誇るものづくりのプロたちの生の声を紹介し、優れた商品が生まれた背景、まさに京都ならではのものづくりのあり方や方法論をストーリーにしました。オーナーの哲学や創業のエピソードなどを交え、それぞれのものづくりの特長を浮き彫りにしようという試みです。ここに登場するのは、京都という土地で独自のブランド戦略を持ち、京都はもちろん全国にも世界にも名を知られる企業ばかりです。ものづくりに携わる人々には、きっと何かを感じ取っていただけることでしょう。