審査員講評

新井 清一 (建築家/ARAI ARCHITECTS代表取締役/京都精華大学名誉教授)

 京都デザイン賞の第6部門、建築関連デザインでは、建築デザイン/インテリアデザイン/造園及び環境デザインの総括であり、スケール的にも機能的にも異なった領域を網羅する作品が応募される部門である。それゆえ審査の過程の中で、単独の評価基準尺度で評価するのは難しい。故に個人的には京都デザイン賞の5つの審査基準をベースとし、この部門の審査に至った。また、現物のサイズとしての展示はそのスケール故できないがゆえ、提出された図面/説明パネル/模型等を読み解くことで審査となっています。
 大賞の「SIX SENSES KYOTO」各室にバルコニーを設け、外部ランドスケープとともに、京都の空間に於ける自然との融合を醸し出す自然派ホテル計画である。
 京都府知事賞の「伊根の杜」は、多世代交流施設でありながらそのボリューム、計画があたかも長年存在していたのでは、と思わせる佇まい、及び空間構成を醸し出している。これは、3つのつなぐ というキーワードをもとに組み込まれ、計画された結果の作品であろう。
 「秘伝のタレを継ぎ足すように」の京町家の解体部材の継ぎ足し計画、「三井ガーデンホテル京都三条プレミア」の三条通と内部ランドスケープをつなぐデッキスペースのあり方、グラフィック部門の「歩」と京都の通り名のコラージュ行進、プロダクト部門の枯山水の「お手拭き」の所作、これらは京都ならではの提案であろう。
 

滝口 洋子 (ファッションデザイナー/京都市立芸術大学教授)

 今年も多数の新しい京都をテーマとした提案が集まりました。プロのデザイナーも学生たちも、あらゆるジャンルのデザインが同じ土俵での審査になります。審査は困難ですが全体を通してみるとこれからのデザインの潮流が感じられ、毎年審査や展示会を楽しみにしています。
 市長賞の「Translucent Scape」ついて
 柿渋は古来より、防水・防虫・抗菌等を目的に塗料として使用されてきました。しかし現在では京都府山城地域の3社のみしか製造を行っていないそうです。作者はこの柿渋を色材として注目し、天然染料や天然顔料と組み合わせるなど多くの実験を繰り返した結果、多彩な表現が可能になったといいます。
 受賞作品は薄いシルクオーガンジーの素材に、友禅染などの伝統的な染色技法を駆使し、柿渋その他の色材を掛け合わせて制作されました。軽やかに、印象的に空間を彩るインテリアファブリックの提案です。
 入選作品の「二十重(はたえ)」は尾州・一ノ宮産のウール地を京都の染工場で染色されました。繰り返し染めを重ねることによるにじみやぼかしの効果が、深みのある魅力的なデザインに仕上がっています。このような他産地とのコラボレーションの取り組みには大きな可能性を感じました。
 「むささび」は後身頃とそこから続く袖のみのシンプルな構造ながら、纏った時の身体との関係で美しいドレープやシルエットが生まれます。発想は着物からのアレンジですが、和装洋装を選ばず着る人が自由に着こなせる点が素晴らしいです。
 「LIAISON」は楽しくアーティスティックな帽子の作品です。端材を出さないなど環境にも配慮されており、作者の造形力と合わさって今後の作品も楽しみにしています。京都からのメッセージが加わればさらによかったと思います。
 

中島 信也 (CM演出家/武蔵野美術大学客員教授/株式会社東北新社アドバイザー)
中島  信也CM演出家/武蔵野美術大学客員教授)

 都の持つ遥かなる時間。山々に囲まれた独特の空間。これをどうやって結びつけて都を繁栄させ、人々に豊かさをもたらすのか。その命題の解決のために長い年月をかけて培われた工夫と技術の結晶が京都のデザインの根っこになってる、と思う。
 これは、ひらたくいうと自然と文化の融合のためのデザイン、ということだ。つまり京都のデザインはここへきて世界中で謳われている「環境と調和して持続可能な世界を描く」SDGsの思想をはるか昔から体現してきたのではなかろうか。
 第6部門の大賞に選んだ「SIX SENSES KYOTO」はまさにその「京都のデザイン」を体現している。事業そのもののコンセプトから「環境」「循環型」を謳っており、「心」をテーマに掲げる、など今京都のホテルに求められているホテル像を実現するための意欲作である。
 第1〜第5部門の大賞である「京都産ヒノキのマグネットドレッサー」も「素材には土地への敬意を払い、京都で再造林された針葉樹人工林の桧を採用。地元で製造し、ウッドマイレージに配慮し、次の造林サイクルへ向かうため、ローカルに根付き持する、循環型のものづくりにトライしています。また製品に使用しているガラスミラーや梱包材も地元の専門業者を採用し、CO2排出量を減らすよう努めています。」と謳っており、高い志を完成度の高い製品のデザインで体現している。
 今回の大賞2点はこれから、この混沌とした世界の中でこれから京都のデザインが果たしていくべき役割についての良きヒントを示しているのではないか、と思いました。
 さて、大上段に構えたお話をしましたが、ほかの受賞作も作品に触れる人の心を楽しく動かす力を持っているものでした。それは、京都のもつ独特のユーモアやウイット、あるいは京都独特のセンスをデザインで体現していて、これもまた京都デザイン賞の持ち味だな、と楽しく感じることができました。
 

村田 智明 (株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役)
     (大阪公立大学研究推進機構協創研究センターイノベーション教育研究所 客員教授)
     (九州大学非常勤講師/愛知県立芸術大学非常勤講師)

 第1〜第5部門の大賞となった「京都産ヒノキのマグネットドレッサーシリーズ」は、株式会社溝川がマグネットブランドMAGLIFE(東京都)と協業し、鏡や小型ドレッサーなどの重量物を壁に穴をあけないマグネット方式を実現している。シンプルだが素材感を生かした優しい表情は、賃貸物件ができなかった壁面の表情を変える力を持っている。地元のヒノキ材、地元のミラー、地元の梱包材でものづくりに掛かるCO2ウッドマイレージの削減にも努めている素晴らしい作品だ。
 京都新聞賞の画架座「京都アルファベット カルタ Amazing KYOTO」は、インバウンド観光に目をつけ、日本古来の「かるた遊び」を紹介しながら京都の文化を英語で紹介していく試みを行っている。イラストを敢えて「和」に寄せないで、アメコミのようなテイストにしている点で、欧米からの観光客のハードルを下げているところも興味深いところだ。
 入選された株式会社松栄堂の「ひとたき香炉こづつSARA」は、火を使わずヒーターで香木や印香、練香などさまざまなお香の香りを楽しめる。安全で手軽で持ち運べ、ヒーター温度で香りの出具合を調整できるのが素晴らしい。外観のスタイリングや質感をお香の空間に相応しい展開をすればさらにニーズの増える商品になりそうだ。
 株式会社フルーツドロップスの「自由器」は、従来の展示什器ボックスの課題である組み合わせの展開性の低さ、デザインの過剰主張、強度の足りなさという点をいずれも克服している。展示物を引き立てるミニマルな美しさに加えて展開性がよく考えられている。また角を落として指を掛けやすくし、蓋を開けやすくするなどの細部までの気遣いが感じられる。
 悉皆屋、日根野勝治郎商店の「KINUAZMA」は、京友禅の絹見本布や試験布から作られたエコバッグ。なので、さまざまな色があってその色の組み合わせから自分好みを選ぶ楽しさと風呂敷を思わせる日本の風情がある。手持ち部分に革と金具を用いた工夫もデザインのポイントとなっている。
 SOU・SOUの「草履あさぶら」は、もともと草履の裏に麻を使っていたものを自転車のタイヤゴムにしている。抗菌性のある竹皮で編んだ表面は内面のウレタンを通して一般的な草履よりクッション性に優れている。加えて鼻緒の柄がさまざまで選ぶ楽しみと華やかで現代的な装いが実現できるアイテムとなっている。
 

八木 義博 (株式会社電通zeroエグゼクティブ・クリエイティブディレクター/アートディレクター)
      (京都芸術大学客員教授)

 普段の作業をしていても、デジタルテクノロジーの進化に伴って、グローバル化がますます身近なものになっていることを感じます。京都というコンテンツは大昔から世界の人を魅了する事柄ですが、そこにはやはり、単に異国情緒のある日本としての魅力ではなく、どこか普遍的な価値がある。それゆえ、世界の人が憧れるものとして認識されているのだと思います。
 建築部門の大賞「SIX SENSES KYOTO」は、建築的に語られるディティールもさることながら、全体に横たわる中庭のコンセプトの筋の通り方に感心させられました。
 もうひとつの大賞「REFORM DRESSER」はマグネットの技術を巧みに使いながら、日本を感じるライフスタイルをもう一段自由にしているところが素晴らしく、またシステムとしての拡張性においてもポテンシャル十分と評されていました。
 外国のように豊かな国土と天然資源に決して恵まれてきたわけではない日本ですが、だからこそ、小さな資産の中に如何に価値を見出すか。その価値転換や価値創造の技術は世界に誇るものだと思います。ハリウッド映画のようなダイナミックな規模のものは作れないかもしれませんが、小さな茶室に宇宙をも見出せる。そんな京都をはじめ、日本のクリエイティヴィティは全世界的に成長が行き詰まっていく世の中に、果たして何が次の豊かさなのか?問いかけることができるユニバーサルなツールになり得ます。ここに集う若きクリエイターの未来の姿にワクワクしています。