審査員講評
杉崎 真之助 (グラフィックデザイナー・大阪芸術大学教授)
実用化される前の作品、実際の製品、そして学生の作品が、渾然となって広い審査会場に並べられている。これが京都デザイン賞のダイナミズムだ。毎年、応募作品を力強いものに鍛えあげていく。
奥深いイノベーション、という考え方はどうだろうか。審査の指針の1番目に「斬新な京都のイメージを創出」と書かれている。文化や技術の蓄積の上に斬新なデザインを生み続けていく歴史が、京都なのかもしれない。
第1分野から京都府知事賞を獲得した「点字紙のブックカバー」は、実際に使用された点字紙を使っている。ブックカバーをつけた本の読者は、点字紙の使用者の存在感をカバーの手触りによって感じる。この作品には、造形だけではなく、つながっているという「気づき」がデザインされている。
第1分野は、大きく捉えるとコミュニケーションデザインのカテゴリーである。製品やサービスを伝えるために重要なロゴやブランディング、ユーザビリティやソーシャルな視点のデザインなど、受賞作のようにもっと幅広い作品が集まることを期待したい。
滝口 洋子 (京都市立芸術大学准教授)
今年も京都の伝統的基幹産業である第2分野(ファッションデザイン、テキスタイルデザイン、キモノ)から知事賞が選ばれたことは大変嬉しく思っております。
「風はらむ絹衣」は着物地の浜ちりめんを素材に和装の特徴である直線裁ちを活かした現代的な衣裳です。和装洋装といったジャンルを超越しており、今着ている服の上に羽織るだけでも独特の世界観が漂います。一見個性が強く着る人を選ぶかのようですが、全く逆で性別年齢を問わず誰もが着こなせる点は素晴らしく、京都デザイン賞にふさわしい作品だと思いました。
第2分野の他の作品も例年より高レベルな印象を受けましたが、入賞に際しては作品の背景を伝えるプレゼンテーションに工夫が必要でしょう。
京都デザイン賞も4回目となり、回を重ねるごとに「京都らしさ」について、また「新しさ」や「機能性」について深く考察されたさまざまな分野のデザインが選ばれてきました。これらの入賞・入選作品からこれからのデザインの目指す方向が見えてきたように感じられます。
北條 崇 (プロダクトデザイナー・京都造形芸術大学プロダクトデザイン学科 准教授)
例年通り多岐にわたるクオリティの高い作品が多数集まり、審査に苦労をしました。
この賞は、提案部門と作品および製品部門があります。どちらにも共通しているのが、実際に「商品」として流通や利用をしようとしているという事です。
京都デザイン賞では、商品としてのクオリティを維持した上で、さらに新しいチャレンジをされている作品を各賞として選定をしています。これは、当たり前のようで非常に難しい事です。
「点字紙のブックカバー」は一見素朴な作品ですが、商品の完成度とともにそれを作られるストーリーの豊かさが評価をされました。また、「azuby」は長年のステンレス加工技術と伝統的な技法を上手く融合して新しい市場を開拓しようとしています。「暗灯野」は照明器具と建築との融合を図るプロダクトとして、斬新な取り組みをしています。
入賞を逃した作品にも光るポイントが多くあり、審査をしながら考え方や仕上げ、または見せ方がもう少し良ければ、、、と悔やまれるものが多数ありました。
デザインは単にカタチが良いだけでは無く、全ての調和が求められます。京都らしい調和の実現と、新しいチャレンジを提案する場として京都デザイン賞を活用下さい。
新井 清一 (建築家・京都精華大学教授)
今回の京都デザイン賞審査を終え、斬新な京都のイメージを創出しているか、独創性があるか、素材、環境への配慮がなされているか、プログラムへの提案がなされているか等が私の審査の判断基準になった様に思う。
そのような考えを密かに持ちながら、1つ1つの作品と向かい合った。
例年に比べ現物の提示を伴った作品が少なかった様に思える。反面、パネルの中に敷地のコンテクスト、機能の概要、デザインのコンセプトを現物が提示できないが故、A-1のパネルの中に全ての情報を混入しなければならない建築の作品が多かったと思う。大賞に選出された萬福寺第二文華殿の作品は、気候/時間によって移ろう宝物を展示する空間である。得てしてこのような空間は、外部との関連を断絶するのが常であろうが、自然光を巧みに取り入れ工芸的なテキスタイルが醸し出す雰囲気とともに唯一無二の空間を創造している。“風はらむ絹衣”は素直に欲しいと思えた。“暗灯野”は、フレームと景色の構成が円通寺の借景シーンを思い起こさせる。学生作品部門“浸透する水景”は,京都と云う都市の中で目立たないが、人々の身近で感じられる景色を生み出すのではないか。“夢虹蛍畳”も陰影礼賛と通ずる商品であろう。
多様なジャンルのデザイン提案が京都デザイン賞の場に於いて審査されるのもこの賞の特徴であろう。結果として、いろいろな部門より京都デザイン賞が選出された2012年の審査会であった。
中島 信也 (CMディレクター・株式会社東北新社取締役)
地域のデザイン振興には大きな意義が見出されており、各地で様々な取り組みがなされています。ただ、ややもするとクリエイター同士の士気発揚にとどまっているものも少なくありません。「京都デザイン賞」の場合は、事業者からの応募が可能であり、現実の産業として活かされているデザイン活動に触れることができます。デザインによる地域活性化をめざすとき、クリエイターと、リアルな産業側との連携があって初めて力が生まれます。今回の大賞作品もまさにクリエイターと事業者との共同作業の賜物でした。
その一方で「提案作品」という受け皿があることも素晴らしいと思いました。、問題を解決し、人々のよりよい生活を描こうとする試みがなくなってしまうと、とても窮屈なデザイン賞になってしまいます。ただ、ここに挑む学生たちにはもっともっと頑張ってほしいな、と感じました。大変な伝統を持つ京都ですが、問題もきっと抱えているはずです。それに立ち向かう力がデザインやアートにはある、という視点で、斬新な提案があふれている場になれば、この賞の価値もさらに高まるであろう、と思いました。