新しい京都のデザインを創出


審査員講評

杉崎 真之助 (グラフィックデザイナー・大阪芸術大学教授)

 この賞では、あらゆる作品が領域を横断して一堂に集まり、京都の地という文脈を通してデザインの価値や本質が問われることが大きな特色です。グラフィックデザインをコミュニケーションの視点から大きく捉えて、印象に残った作品を紹介します。
まず、京都新聞賞の宮津・竹の学校「手ぼうきキットとデザインブルーム」は、竹ぼうきにより竹と地域の価値を再発見するブランディングであると見ることができます。京都市長賞「古都呼吸石けん」は、石鹸を媒体と位置づけ、北山杉と香りこそがコアコンテンツであるという視点が素直に定着されています。
 「京都の清酒」では、清酒のラベルの固定概念を破る提案が選ばれました。京都商工会議所会頭賞の「金魚のラベル」は、学生部門からの応募です。内と外、お酒とイメージがビンの小宇宙となり、見る人と酔いのエクスペリエンスが設計されていました。伏見酒造組合賞の「地図と地名のラベル」は、半透明の紙を通して2つの情報レイヤーで構成され、ラベルを情報メディアとして拡張しています。
 入選作の中では、松栄堂「お香 薫々シリーズ」、尚雅堂「京のお漬物ポチ袋」、第一紙行「掛花」、辻商店「漉入れ懐紙」をはじめ、プロダクトデザイン、雑貨などの分野において、グラフィックデザイナーの視点から数多くの秀作を目にすることができたのが印象的でした。

滝口 洋子 (京都市立芸術大学教授)

 デザインは人のより豊かな生を目的に今日ますますその対象を広げ、形のあるなしにかかわらず人の生みだすモノや活動のすべてに関わっています。形が美しく機能性に優れていることや今を感じさせる時代性はデザインにとってもちろん重要ですが、そのモノが完成するまでの作り手の思い、メッセージが最も大切であること。そしてそれをどのように発信して伝えようとしているのか、その方法や計画に対しても評価すべきなのだと今回審査を通して再確認いたしました。
 入選 . 入賞された作品のなかにはモノの完成形としてはまだ変化する可能性があるにしても、その活動や計画に対する姿勢に魅力があり評価されたものが何点かありました。
 領収証のデザインから日本酒を通した地域おこしの活動、食に対する取り組み、保育園舎の提案にいたるまでデザインの形はさまざまで、比較して賞を決定することは一見不可能に思えます。しかし作り手の思いに焦点をあててみるとそこに強いメッセージとともに京都に対する思いも見え隠れし、ディスカッションを繰り返すことで次第に審査する側の見解は一致してきます。こうして第5回と審査を重ねることで京都デザイン賞独自の方向性もはっきりしてきたのではないかと感じました。
 第2分野の作品については和装洋装のジャンルを超える新鮮なコスチュームデザインやさまざまなターゲットに向けた提案が増えてきました。今回は残念ながら僅差で入賞にはいたりませんでしたが、京都発の衣のデザインの広がりが感じられ今後の展開が楽しみです。

北條 崇 (プロダクトデザイナー・京都造形芸術大学准教授)

 デザインを賞として評価する際には、単にスタイリング(色、柄、形)だけでは無く、社会に対してどのように働きかけをしているか、というより総合的な視点が求められるようになっています。
京都デザイン賞は、それらに加えて「京都らしさ」をいかにデザインの中に組み込むかが課題になっている賞となります。
 今年は商品としてのデザインの完成度は高いものが多く、京都のデザインの底上げを感じました。ただその中で賞を選ぶ際には、社会に対する問いかけと、京都らしさと両立するデザインの難しさを感じました。今回受賞された商品は、その様な視点で優れたデザインをされているものになります。
 「三井ガーデンホテル京都新町別邸」は、街の古い文化を未来に継承する為の取り組みを高い次元で両立させた点が評価されました。「Guild Japan Kyoto『一品・MASAKI』Series」は、木象嵌の技術、木の高い加工技術を新しいジャンルへ展開した点が評価されました。「古都呼吸石けん」は、商品の背景として現在活用が求められている北山杉の活用案として、精油を利用するという所が評価されました。「宮津・竹の学校 手ぼうきキットとデザインブルーム」はコトのデザインとして、庭師の文化の継承と竹材の有効活用、地域興しなど複雑に絡み合う課題を、スマートに解決した提案でした。また、「米(マイ)Little Kyoto」は、ギフト用のお米の市場に京都という新しい視点の、意欲に富んだ学生らしい提案でした。
 惜しくも賞を逃しましたが、「Silk Art Tea Table」や「掛花」などをはじめ、他にも質の高い商品が多数入選していました。
 ただ、展示での商品の見せ方が不十分なものが多く、良さが感じられるのに説明されていないものも多くありました。お客様に届けるまでの経験をデザインするという視点で、商品開発にあたって頂きたいと思います。

新井 清一 (建築家・京都精華大学教授)

 京都デザイン賞の審査に於いて応募された作品は、提案部門、作品及び製品部門、課題部門に分類されたものであった。第1分野のグラッフィック・イラスト・パッケージデザイン、第2分野のファッション・テキスタイル・着物、第3分野のプロダクト、雑貨、そして第4分野のインテリア・建築・ランドスケープなどである。これらのラインアップを俯瞰して観られる機会をいつも楽しみに審査会場にやってくる。しかしながら、多くの作品を目の前にしてみるとその審査基準をもう一度呑み込み、京都というキーワードをデザインの要素として提案されているかが審査の基準とならざるをえない。この点を踏まえ審査に望んだ。
 京都デザイン大賞の三井ガーデンホテル京都新町別邸は、そのデザイン意図が京都デザイン賞の趣旨に合致しているに他ならない。ファサードはあたかも以前から存在していたかの様に繊細に分節され、既存の構築物と相まって違和感は殆ど感じられなかった。他方,外市秀裳苑ビルは柄のパターンを外装の意匠としている。しいていえば表層的なデザインでの勝負に徹底した感がある。西陣の家のマスと坪庭空間の連続に依る住宅提案、COZY御所の借景を意図した断面構成、シンプルではあるが4mx30mの長さを生かした奥行きを持つ喜聞堂/art space 余花庵、そして内部・外部の連続性と縁側デッキを持つ開放的な構成が顕著な愛光みのり保育園が各賞に値すると思えた。
 京都の清酒のラベリングの楽しさと、米(マイ)Little Kyotoのほんのりした気使いを感じさせる学生達による作品も気に入っている。

中島 信也 (東北新社取締役・CM演出家、武蔵野美術大学客員教授)

 「デザインとは問題を解決することである」と言われたのはたしかイームスさんやと思いますが、日本へは「デザイン」が「意匠」「図案」という言葉で輸入された関係もあって「考え方」よりも「腕の良さ」が評価されてきました。それは全然悪い事ではないんですけど昨今、社会のあらゆる側面で「デザインによる問題解決」への期待を感じます。今回の京都「デザイン」賞グランプリは「社会問題の解決のためのデザイン」をわかりやすく表す例として、大変意義のあるもんや、と評価できると思います。日本のデザインとしては珍しく明快な「哲学」が読み取れるんです。