新しい京都のデザインを創出

審査員講評

久谷 政樹 (グラフィックデザイナー・京都造形芸術大学名誉教授)

 今年の大賞は小林亜弥香さんの作品yuzen jewelry “suiu”に決まった。そもそも作品審査は宝探しとよく似ている。審査する楽しみは一口で言えば「新しい価値の発掘」の喜びだと思う。一方で作品を通し、審査する側も審査されているのだと思う緊張感だろう。
 Yuzen jewelry "suiu"は見過ごし、通り過ぎてしまいそうな野道に咲く小さな花の群れに似ている。
 伝統的な友禅とモダンデザインの融合したジュエリーは今まで数多く見てきたので、そのまま通り過ぎそうになったが、「何かが違う」と直感が働いた。身をかがめ一点一点手に取り凝視すると、今まで見たことのないしっかりとした新しい技が10mm角のピアスをはじめ、他のジュエリーにも仕組まれているのである。布を立体的に構成されているのに構造体が見えない。さらに凝視したがその技法が解からなかった。私が不勉強なのか、作者の企業秘密なのか聞いてみたいところだ。
 いずれにしてもyuzen jewelry "suiu"は伝統に習い伝統を超えていると言ってもいいだろう。正に「新しい価値の発掘」であった。

滝口 洋子 (京都市立芸術大学教授)

 京都デザイン賞は建築物からプロダクト製品、また今回はみられませんでしたがモノよりコトを重視した提案まで多様なデザインが一同に集められ「斬新な京都」という切り口で審査を行なうという特徴があります。この賞の審査は毎年とても興味深く、新しいデザインへの視座を発見することができます。
 大賞の「yuzen jewelry "suiu"」は友禅染の糊糸目を活かした染生地を立体に加工したアクセサリーのシリーズです。少しの風にも反応するほど繊細で、自然からのフォルムや色、光を通して現れ消えるモアレ柄が効果的です。
 他にも西陣織を使った「輝襖」、墨アートのファブリックを使った「Sumihiko」シリーズなどをはじめ、繊維を素材とした優秀な作品が多数みられたことが今回の審査で印象に残りました。友禅染や西陣織など京都を代表する伝統技法や素材はその完成度ゆえに現代的な展開は難しいのですが、これらの作品は伝統を大切にしつつ昇華させる方法が軽やかで見事だと思いました。
 エントリー点数も増え、課題部門もますます充実してきています。来年もまた新鮮なデザインが多数集まることと期待しております。

村田 智明 (株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役)
      (京都造形芸術大学プロダクトデザイン学科客員教授)

 <入選作品>
 「こといろはノート」は、京都のクリエーター47人が活版印刷を使って伏見のモチーフと五七調の言葉をビジュアル化したノートシリーズ。レトロでいて新しい、京の先端のグラフィックセンスが秀逸。
 「お風呂の入り方・手ぬぐい」は、外国人観光客に入浴マナーを知ってもらうための手拭い。マナー教本を浴室の壁に貼るのではなく、4か国表記の手拭いとしてチェックイン時に手渡すことで、自国語でイラストを楽しみながら入浴マナーを学ぶ工夫がなされている。
 「スフェラーペンギン」は、LEDの目が光るアクリルのオブジェ。粒状の球体型太陽電池を平面上に並べているため、全方位からの反射光を受けやすい構造になっていて、室内の光量でも点灯している。結線が殆ど分からない技術が電気製品を脱していて、この応用に期待が膨らむ。
 「ginger黒谷シリーズ・友禅シリーズ」は、黒谷和紙の手漉きならではの風合いを生かした楮紙のうちわや名刺ケースや箱物と、紙布染の伝統柄を活かした友禅紙の和文具。いずれも静かな佇まいの中に、品格を感じさせる仕上がりとなっていて、手仕事ならではの精緻さを感じさせてくれる。
<受賞作品>
 伏見の清酒・都鶴賞を受賞した作品は、伏見の名水をイメージさせる透明感のあるデザインに加えて、日本酒ボトルのリサイクルが難しいこの分野に対し、飲み切った後のボトルの再利用を視野に入れたエコデザインを実現している点が評価された。
 京焼・清水焼「晋六窯」賞を受賞した「TOU」は、取手の無い醤油さしのような急須。2重構造にすることで熱を遮断し、そのまま本体が持て、コンパクトになったためそのまま冷蔵庫にも入れることもできる画期的なアイデアだ。容量の小ささや洗いにくさに改良の余地は残るが、このシンプルで美しい造形でシリーズ化を果たしてほしい。
 京の和文具賞を受賞した「京尺取」は、今でも着物の世界で使われている尺貫法に着目。鯨尺を日常の中に持ち込むためにテープ状にすることで、1寸が3.8センチほどの長さだということを簡単に実感できるように考え、文化の伝承に寄与している。
 京とうふ藤野賞を受賞した「旅にそえる、湯どうふ」は、京の品位を伝える紐をあしらったパッケージが、そのまま紐を引っ張り温めるという新しい「豆腐の駅弁化」につながっている点が評価された。
 大賞を受賞した「yuzen jewelry "suiu"」は、友禅の染色技法を独自の立体ファブリックに応用し、自然界にある有機的なモチーフを見事な作品に昇華していて、友禅の可能性を拡げたことに意義が大きいと感じた。
 市長賞を受賞した「西陣織襖紙KIOU」は、絹糸と金糸、銀糸を使って竹取物語を図案化した西陣織の襖紙。高級ホテルの内装など、着物からインテリアへと着想を変えて、一品の付加価値を高め西陣の魅力を伝えていく試みが素晴らしい。
 京都新聞賞を受賞した「天橋立離宮星音」は、宮津のリゾートホテル。高いデザイン性に加えて、自然を上手く取り込みながら、京都の魅力を伝えている。このような地域活性の起爆になる感性発信型の拠点が、もっと増えて欲しい。

新井 清一 (建築家・京都精華大学教授)

 本年度京都デザイン賞の審査員として建築・ランドスケープ・インテリアデザイン・ディスプレイ部門に関してその評価の基準は何とすべきか、という問いが自分自身の中で浮かび上がってきた。この部門に於いては、勿論、対象物は現物のサイズに於いて展示がなされていない。
 それらは、用途、コンテクスト、スケール、またそれらの相関性をもつプログラムのうえで成り立っている。しかるに、一枚のパネルを通じて、如何に私ども審査に関わるものに訴えかけてくるものがあるか、また京都のイメージ、独創性、素材、技術、環境等への配慮がなされているかを基準とする評価とした。
 受賞の作品は少なからずこれらの評価に値するものとして選出されている。
 知事賞の”宝ホールディング歴史記念館”は、3つの庭の織りなす内外の空間の視覚的な設え方、及び水平力を感じさせる白い壁、のびやかに持ち出しされた庇の外観が注視を誘うに至っていよう。“まめのき保育園”は、京都の地割りの特徴である鰻の寝床と称される70mの奥行き空間を蛇行し、更に家型空間の連続性をかませる事で、流れがありつつも多様な内外空間を子供に提供している点が好感を呼んだ。「京都しるく」のミニマムな空間に施された純白のフレームは新旧の対比を伴いつつも「みせ」「にわ」「通りにわ」という町家の要素の混在とともに空間、ファサードに斬新さを醸し出すに至っている。学生賞の“元旦限定市営地下鉄1day フリーチケット”の作品は、その年の干支にまつわる寺社仏閣を抽出し、記念にもなるであろう同サイズのチケットシリーズの提案である。時系列的な側面、———2022年寅年のときに鞍馬寺に行ったね---と京都を訪れた人々の人生メモリーの一端となるのではないかと思う。

中島 信也 (株式会社東北新社取締役/CMディレクター、武蔵野美術大学客員教授)

 ほんまに微妙な感覚なんですけど、ちょっと冒険したくなってきてます。景気が高揚する気配はない。みんながバンバン物買いまくるような風潮もない。でも、なんやしらんけど、そろそろ不景気に飽きてきてる。まさにこの京都デザイン賞が掲げる審査基準の第一に掲げられている「斬新な京都のイメージを創出する」ことに本気で挑戦する時が来ているような感じがするんです。
 これまでの作品たちの、伝統の造形美を新しいかたちで実現するクラフト力の強さは相当なもんです。でも今回「ちょっとぐらい乱暴でもなんか革新するものを見つけたい」という欲が自分に生まれていることに気づいんたんです。技術の革新というよりも「発想の革新」を欲望する僕がいたんです。
 そんな僕の欲望を満たしてくれたんが「京都しるく」の店舗です。町家づくりの良さを活かしたアプローチはこれまでも多くありましたが、これはすごい。「陳列した商品を均等にきちんと見せたい」という考えで真っ白しろな空間を作ろうとしたらしいのですが、真っ白しろな箱をそのままぶち込んでどないすんねん、とつっこまれそうな大胆なデザイン。でも、ここらへんに「発想の革新」は芽吹き始めてるんとちゃうやろか。大胆な提案は往々にして賛否両論を招きます。でも、そろそろそんぐらいの冒険を、世の中は求め始めてるんとちゃいますやろか?
 今欲しいのはチャレンジする魂です。この暴論を真に受けてえげつないものを生んでくれる新しい才能の出現に期待をこめて、今回の僕の講評とさせていただきます。