新しい京都のデザインを創出

審査員講評

久谷 政樹 (グラフィックデザイナー・京都造形芸術大学名誉教授)

 知事賞受賞の「機能性介護食器」は一見、普段よく目にする伝統工芸品「松花堂弁当」品の良い、漆、陶器、磁器による、洒落た食器セットである。よく見るとお箸が無くて持ち手に特徴のあるスプーンが2種添えてあった。あれっ!これって介護食器?と思いコンセプトパネルに目をやった。コンセプトには京都の伝統工芸・医師・作業療養士・料亭・大学との共同で作った「食べる楽しみ」を叶える「感性価値の高い」機能性介護食器とある。ぼくはこれまで沢山京都の伝統工芸のデザイン商品開発に関係してきたが、意表をつかれた。
 近年、科学技術の最先端でも「感性」という言葉をよく耳にする。それぞれの器は人間工学的に考えられ、角をなくす、返しをつけるなど様々な仕掛けがあり食べやすい構造になっている。キーワードは「感性と科学の融合」だと思う。
 それにしても、よくこれだけ異分野の専門家でチームを組むことが出来たのだろうと驚くと同時に今後に期待したいです。この新製品に主役はいません。チームの勝利です。
この企画を成功させた、地方独立行政法人京都市産業技術研究所デザインチームのみなさんに敬意を表します

滝口 洋子 (京都市立芸術大学教授)

 大賞の「紙庵」には和紙のピースを組み合わせて作り上げる造形の多様性や設置、移動の自由さに新しい可能性が感じられました。
 知事賞の「機能性介護食器」、市長賞の「御所西の宿群」には時代がデザインに求めているユニバーサルデザイン性を踏まえながら世界からみた京都のイメージが大切にされていました。
 この他にも入賞入選作品には京都デザイン賞の最大の特徴である「斬新な京都のイメージの創出」が、前面に京都をアピールするだけではなく、素材との向き合い方や丁寧なものづくりといったさまざまな角度から提案されており、興味深い審査会になりました。
 繊維素材の作品では現実的で現代の生活にマッチした「カメラ風呂敷」「襟巻きジバン」が入選されています。これらのように数年にわたっての入選は大変難しいもので応募者のデザイン企画力が高水準で安定していることの証しだと思います。
次回は課題部門や学生からの積極的な参加、またジャンルを超えた社会性のある提案もみられるのではないかと期待しております。

村田 智明 (株式会社ハーズ実験デザイン研究所 代表取締役)
      (京都造形芸術大学大学院SDI所長・プロダクトデザイン学科教授)

 紙庵は、8つ折りされた4000ピースの和紙片でできた鎌倉状の茶室。接着剤を使わず差し込むだけでできているため、違う形への応用展開へ発展できそうだ。二条城の土間に設置されたインスタレーションで、その新旧の対比やミニマリズムの感性が非日常の好奇心を与えてくれた。京都デザイン大賞に相応しい着想と実践だと思う。京都府知事賞を受賞したこの作品は、松花堂弁当スタイルの介護食器を提案し、従来の食を提供する側の都合で諦めてきた「食べる楽しみ」を叶えるために、清水焼団地協同組合や産技研、作業療法士、医師、料亭、大学との共同開発となった。蛤皿を始めとする機能性と感性美を兼ね備えた磁器や、またすくいやすい縁付き粥椀や握力に合わせた持ち手のスプーンなど、用の美とメンタリティに配慮した心遣いに京都らしさを感じた。京都市長賞を受賞した御所西の宿群は、一棟貸しの町屋と長屋の10棟が向かい合い、路地全体が一つのホテルとなっている。単一開発ではなく纏まることで、路地の環境がここまで美しく守られるという好実践事例だと思う。京都商工会議所会頭賞を受賞したmemo彫は、2つ折りでレーザーカットされたお辞儀のシルエットが立ち上がる切り絵のメモ。伝えたい人に京都らしい気配りを感じてもらえるデザインとなっている。京都新聞賞を受賞した数研出版の社屋の「透かし窓」は、蘇州の拙政園にある漏窓のように、内外を違和感なく折衷している。見る角度によって異なる見え方や発見があるのが新鮮だ。伏見の清酒・都鶴賞を受賞した作品は、すりガラス調のボトルに繊細な赤鶴の切り絵グラフィックが施され、その影がガラスに美しい奥行き感を与えている。学生賞を受賞した和紙おりは、京の風情の一コマが美しいイラストで表現されていて、コスパの高い土産アイテムをプロ並みに考えている点が評価できる。京の和文具賞を受賞した京のまごころのしは、京都弁のウィットを使う側の判断に任せたところに商品性が見られる。京とうふ藤野賞を受賞したスイーフは、豆腐をデザート感覚で食べるためにソース(蜂蜜、黒糖、ゆず)を付けたパッケージが斬新だった。

新井 清一 (建築家・京都精華大学教授)

 審査会を終えて感じた事は、京都デザイン賞の今後の位置づけの示唆を行う上で、審査は重要な役割を担っているのではないかと思えた。各分野が一同に介して、京都のイメージ、独創性、使用勝手、素材・技術、環境などのキーワードをもとに多くの作品を俯瞰しながら見られるのは、楽しくもあり、又緊張する場でもある。
 建築、ランドスケープ、インテリア、ディスプレイの分野は相対的にレベルが高く、好ましい限りである。中でも“御所西の宿群”は、京都の街の抱えている諸問題、環境、公共空間(路地的な空間)、及び細かいが故の公道に面さない不効率な場の存在を一挙にデザインと企画という構成を伴い、是正の方向にシフトさせている。この行為事態が賞を得るのに相応しいと思えた。“数研出版関西本社ビル”は京都らしさを実直に捉え、烏丸通りに面するファサードにアルミキャスト格子を用い、縁側的な中間領域を創成し柔らかな外内部の領域取り組み計ると共に、水平方向の庇に依る分節を施している。屋上回廊庭園の断面はパラペット処理の空間を利用している様に思えた。“京都産大サギタリウス館”の大階段スペースは地形と風景と空間を融合された自然に集まりたくなるような公共空間的な場が素晴らしい。
 住宅作品では“右京の家”, “音と桜の家”が目に留まった。前者は大きくガレージ棟と居室棟の分離により、周辺又は囲まれる形で7つの庭を配置し、京都の風土に対応する風、光、視線の場をデザインの中に取り入れている。後者は単純な長手のフォルムと切妻断面の空間が美しい。音の効果がどの様にデザインと共に奏でられているのか感じてみたい作品である。

中島 信也 (株式会社東北新社取締役/CMディレクター、武蔵野美術大学客員教授)

 「京都の伝統と文化を守りながら、新たなデザイン手法を用いて、新しい京都のデザインの創出を図る」京都デザイン賞。「京都の伝統と文化を守りながら」という大変な文言が記されてます。簡単に言うけど「京都の伝統と文化」を一言で言える人はおらへんのんちゃうか、と思います。建物で言うと神社・仏閣の様式やったりお庭の造形やったり、衣の世界では織物、着物、帯、小物の色や形は京都の伝統やし、食の世界では、京料理、京和菓子の造形から器、ほんで一方ではおみやげやさんで売ってるアクセサリーや小物も「いわゆる京都らしさ」は漂わせています。
 本来やったら無限にあるこれらの品々から京都の造形の本質を抽出する手間をかけへんことには「京都の伝統と文化を守る」という凄いことはできないんとちゃうか、と思いますが、いかんせんデザイナーにそんな時間はどこにもない。かといって既成概念としての「京風」に乗っかればええのかというと絶対にそうではない。ほな、どうすればええのか?ここが「京都デザイン賞」に作品をだしてくるときの大元にあるデザイナーの苦痛なんとちゃうか、と察するわけです。
 でもこのアワード、「伝統と文化を守る」ためにやるんとは違う。あくまで「新しい京都のデザインの創出を図る」というのが大目的です。これは「自由にチャレンジしようや!」っちゅうことやと思うんです。伝統的な造形モチーフを具体的に引用するのもよし、けどもそれを超える新しい挑戦を求めているんやと思うんです。京都から発信された新しい造形が新しい京都のイメージを生んでいく。こういうサイクルを構築するのがデザイナーの仕事やと思うんです。それをやらんと「古都デザイン賞」になってまう。
 今回の大賞「紙庵Shi-An」はそういう意味で非常に強い発信力を持っていると思います。伝統和紙を用いてる。折り紙という伝統的な手法の上に成り立っている。ただ、造形はなかなか斬新で、なにかをモチーフとしているわけではない。「これなんやろ?おもろいなあ!え?これ『京都デザイン賞』の大賞?へええ!おもろいやん『京都デザイン賞』!」という声を求めたい。京都的モチーフを高度に昇華させた建築がこのところ大賞を獲得してて、建築の世界では一目置かれてる賞となってるみたいですが、もっともっと広がりたい。グラフィックもプロダクトもテキスタイルもファッションも!もっともっと殻を打ち破るものを発信して、京都デザイン賞を盛り上げていかなあかん!と思ってます。